すべてとヤッた始皇帝

 中学のとき、フジムラくんって同級生がいて、そいつの書いたモノが印象的だった。

 

 国語の授業で、作文の宿題が出た。各々書いたモノを提出して、後日クラス全員分のそれがプリントに印刷されて配られた。その中で、フジムラくんのは『すべてとヤッた王さま』っていう短い小説だった。ショートショートだった。

 

 それは始皇帝の話だった。専制君主、始皇帝が権力を使ってセックスをしまくる話だった。世界中の美少女を召し上げてヤリまくる話だった。

 ヤッてヤッてヤリまくって、やがて美少女だけじゃ飽き足りなくなってブスともヤるようになった。世界中のブスとヤッて、男ともヤッて、犬や馬、麒麟、青龍、ユニコーン、石像、老婆、宦官、四肢欠損者、アダム、イヴ、――とかなんとか、この世のすべてのモノをヤッていった。セックスをコンプリートしていった。

 

 で、あるとき始皇帝は気づいた。「ベロニカ」とヤッてるときに気づいた。この「ベロニカ」だけじゃなく、《裏》のベロニカともヤラなきゃ本当の意味で「ベロニカ」とヤッたことにならないと。――その小説だと確か《裏》だか《逆》だかって用語だったけど、つまり要は「not」のことだった。「A」に対する「not A」、そいつともヤラないとセックスを網羅したことにならねぇわ、みたいな。セックスを満たしてない、セックスで満たしてない、みたいな。

 

 で、「not A」とヤるってのは具体的にどういうことなのか。――それは要はオナニーだった。「A」のことを考えてオナニーするのが「not A」とヤること、ってことだった。そういうわけで始皇帝はオナニーしまくった。今までヤッたヤツらのことを思って来る日も来る日もオナニーをし続けた。目の前にいない「B」を、「Z」を、「Φ」を、つまり「not B」を、「not Z」を、「not Φ」を犯していった。ひとり、自分で自分のちんこをしごくことで。

 

 で、「not 始皇帝」とヤッてる最中に始皇帝は死んだ。「腹上死」。ルビで「テクノブレイク」と書かれてた。

 

 腹上死もテクノブレイクもその作文を読んで初めて知った単語だった。フジムラくんは進んでた。モノ知りだった。

 

 フジムラくんと最後に会ったのは成人式のときだった。噂、又聞きだと大学を出て県庁に就職したらしい。フジムラくんは野球部だった。野球もうまかったし成績も良かった。

 

 卒業記念、か何かで配られた文集にもフジムラくんは小説みたいなのを書いてた。それも面白かったんだけど、そっちは内容を忘れてしまった。今でも実家に帰ると本棚とか押入れとかちょろっと探したりしてんだけど、見つからない。「取っておこう」と思って、どっかにしまったはずなんだけど……。